人事のペーパーレス化とは?紙が残りやすい業務と電子化の進め方

コラム

結論から言うと、人事のペーパーレス化は「紙をなくすこと」を目標にすると失敗しやすく、「同じ情報を何度も書かせない」ことを目標にすると進めやすくなります。紙が残りやすいのは、入社手続き書類、労働条件通知書、年末調整、各種申請、評価シート、身上異動の届出の6種類です。まず紙の業務を棚卸しし、「何度も書き写している情報」が多いものから電子化の優先度を上げるのが近道です。

「入社のたびに同じ住所と氏名を何枚にも書いてもらっている」「年末調整の時期は書類の回収と確認で人事が手一杯になる」「評価シートが紙で、集計は結局手入力」——こうした悩みは、紙そのものより、紙を介して同じ情報が何度も転記されることから生まれています。本記事では、人事・労務で紙が残りやすい業務を一覧にして、電子化の手段と注意点を整理します。あわせて、労働条件通知書を電子で渡すときに確認したい法的なポイントと、棚卸しから始める進め方をまとめます。

人事・労務で紙が残りやすい6つの業務と電子化の手段

人事の紙は、入社から退職までの手続きに広く散らばっています。業務ごとに「紙が残る理由」と「電子化の手段」をそろえて見ると、どこから手を付けるかが決めやすくなります。

業務 紙が残る主な理由 電子化の主な手段 先に確認したい点
入社手続き書類(入社誓約書、本人情報、通勤経路、口座など) 入社者ごとに提出物が多く、同じ項目を何枚にも書く 入社者が本人情報をWeb入力し、必要な書類へ自動で反映する 本人確認や原本の提示が必要な書類は別扱いにする
雇用契約書・労働条件通知書 署名・押印や、本人への交付の記録を残したい 電子メール等での明示、電子署名を使った契約の締結 労働条件通知書は電子交付に条件がある(後述)
年末調整(扶養控除等申告書、保険料控除申告書など) 従業員ごとに記入内容が違い、添付書類も多い 申告書をデータで作成・提出し、給与計算へ取り込む 電子で出せない従業員向けに、書面での提出も残す
各種申請(住所変更、通勤手当、休暇、残業など) 承認印と回覧が前提の運用が続いている 申請から承認までをシステム上で完結させる 承認ルートと代理承認の決め方を先に整理する
評価シート(目標設定、自己評価、上長評価) 記入と集計を別々の人が担当している 入力画面と集計を一体にする 評価の項目と基準をそろえてから移す
身上異動の届出(結婚、出産、転居、扶養の変更など) 社会保険や税の手続きごとに、別の様式へ書き写す 本人が1回入力し、各手続きの様式へ展開する 届出の種類ごとに、誰がいつ入力するかを決める

この表のとおり、電子化の手段は大きく「本人に入力してもらう」「申請と承認をシステムで通す」「電子で渡して署名をもらう」の3つに分かれます。どの業務にどの手段を当てるかを決めるのが、最初の作業です。

なぜ人事の紙は残りやすいのか|3つの理由

人事の紙が減らないのは、担当者の意識が低いからではありません。業務の性質上、紙が残りやすい事情が重なっているためです。理由を3つに分けて整理します。

理由1|書類の種類が多く、提出者もばらばら

人事・労務の書類は、入社者、既存の従業員、退職者、扶養家族のいる人、いない人で必要なものが変わります。経理の請求書のように「型が決まった書類を大量にさばく」仕事ではないため、まとめて電子化しにくいのが実情です。

理由2|同じ情報を書類ごとに書き写す構造になっている

氏名、住所、生年月日、扶養家族の情報は、入社書類にも、年末調整にも、社会保険の届出にも出てきます。書類ごとに様式が違うので、本人も人事も毎回書き写すことになります。紙が多いと感じる正体は、紙の枚数より「転記の回数」であることがほとんどです。

理由3|押印・原本・保管のルールが曖昧

「この書類は押印が必要なのか」「原本を取っておくべきなのか」「何年保管するのか」が、担当者の経験に頼ったままになっていることがあります。曖昧なまま電子化すると、紙と電子が二重に残ります。保管の扱いは、電子化の前に社内で決めておく項目です。

業務ごとの電子化のポイントと注意点

電子化の手段は同じでも、業務ごとにつまずく場所は違います。ここでは、紙が多い4つの業務について、進めるときの注意点を挙げます。

入社手続き書類|入社前に本人が入力できる形にする

入社手続きは、本人が入力する項目が多い一方で、入社日前に集めたいという事情があります。入社前の段階で本人情報をWeb上で入力してもらえるようにすると、人事が書類を受け取って打ち込む作業が減ります。ただし、本人確認書類の確認や、原本の提示が必要な手続きは残る場合があります。「電子で済む書類」と「対面や原本が必要な書類」を最初に分けておくと、入社者への案内もしやすくなります。入社後の受け入れ全体は、オンボーディングの進め方もあわせて参考にしてください。

年末調整|電子で出せない人の逃げ道を残す

年末調整は、毎年同じ時期に全員分を集めるため、電子化の効果が出やすい業務です。一方で、従業員のなかには、パソコンやスマートフォンでの入力に慣れていない人もいます。全員を電子に切り替えるのではなく、電子で出す人と、書面で出す人が混在しても回る運用にしておくと、期限直前の混乱を避けられます。回収状況を人事が一覧で追えるかどうかも、確認しておきたい点です。

各種申請|承認ルートを決めてから電子化する

住所変更、通勤手当、休暇などの申請は、紙のときは「回覧して印をもらう」で成り立っていました。電子化するときは、誰が承認するのか、不在時は誰が代わるのかを決める必要があります。決めずにシステムへ移すと、承認待ちで止まる申請が出ます。申請と承認の仕組みづくりは、後ほど紹介するワークフローシステムの比較が参考になります。

評価シート|項目と基準をそろえてから移す

評価シートは、紙の様式をそのままシステムに写すと、部署ごとに書き方がばらばらなまま残ります。電子化は項目を見直す良い機会です。評価制度そのものの見直しは別の話になるため、評価の運用で困っている場合は人事評価が形骸化する原因と立て直し方で整理しています。

電子化で確認したい法的ポイント|労働条件通知書の電子交付

労働条件通知書は、電子メール等で渡せます。ただし、労働者が希望した場合に限られ、労働者が出力して書面を作成できる形式であることが条件です(2026年10月時点で、厚生労働省のページで確認できた内容です)。

雇い入れのときに労働条件を明示することは、労働基準法で使用者に求められています。この明示は、原則として書面で行うものです。厚生労働省の案内では、労働者が希望した場合は、FAXやWebメールサービス等の方法で明示することもできるとされています。ただし、書面として出力できるものに限られます(出典:厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」)。

同じく厚生労働省の「確かめよう労働条件」では、書面による明示の代わりに、FAX、電子メールやWebメールサービス、LINEやメッセンジャー等のSNSメッセージ機能等の方法によることが認められているとされています。ここでも、労働者の希望があることと、労働者がその電子メール等の記録を出力することで書面を作成できるものでなければならないことが条件として示されています(出典:厚生労働省「労働条件の明示|しっかり学ぼう!働くときの基礎知識」)。

この内容から、実務で押さえておきたい点は次の3つです。

確認する点 厚生労働省のページで確認できた内容 実務での受け止め方
労働者の希望 電子的な方法での明示は、労働者が希望した場合に認められる 全員に一律で電子交付するのではなく、希望の有無を確認する手順を入れる
出力して書面にできるか 書面として出力できるものに限られる 閲覧専用で印刷や保存ができない形式は避け、PDFなど出力できる形で渡す
方法の範囲 FAX、電子メールやWebメールサービス、SNSのメッセージ機能等が示されている 社内で使う方法を絞り、手順書に残す

ここで書いたのは、労働条件の「明示」の方法についてです。雇用契約書への署名や押印を電子署名で行う場合の扱いや、書類ごとの保存期間は、この記事では確認できた範囲に含めていません。社内で運用を決める前に、社会保険労務士など専門家や所管の窓口へ確認してください。電子署名を使った契約の仕組みそのものは、電子契約サービスの比較で整理しています。

紙をなくすことより「同じ情報を何度も書かせない」を狙う

ペーパーレス化の効果は、紙の削減量では測れません。見るべきなのは、同じ情報を何回書いているか、何回打ち直しているかです。紙をスキャンしてPDFで保存しても、その情報を別の画面に打ち込み直しているなら、手間はほとんど減りません。

二重記入が起きている場所を探す

次の表は、1人の従業員の情報が、人事の手続きのなかでどこに何度も出てくるかを整理するための例です。自社の書類に置き換えて、丸を付けてみてください。

情報の種類 よく出てくる場面 転記が起きやすい理由 減らす考え方
氏名・住所・連絡先 入社書類、住所変更届、社会保険の届出、年末調整 書類ごとに様式が違う 本人が1か所で入力し、変更時もそこだけ直す
扶養家族の情報 入社書類、身上異動の届出、年末調整 年に1回しか見ない書類が多く、前年の内容を見ながら書き直す 前回の登録内容を表示し、変更点だけ入力してもらう
口座・通勤経路 入社書類、通勤手当の申請、給与計算 人事が受け取った後、給与担当が打ち込む 入力した内容を給与計算の元データとして使う
評価・異動の履歴 評価シート、異動の通知、人事台帳 紙の結果を台帳に転記している 評価の入力先と台帳を同じ場所にする

「入力は1回、使い回しは自動」を目標にする

目標は、本人が入力した情報が、必要な書類や手続きへそのまま流れる状態です。そうなると、紙があるかどうかは二の次になります。情報の持ち方を整える話は、人事情報の一元管理で詳しく扱っています。Excelの管理に限界を感じている場合は脱エクセルの人事管理、全体の進め方を知りたい場合は人事DXの進め方が入り口になります。この記事では、そのなかでも「紙の手続き」に絞って話を進めます。

紙を減らす進め方|棚卸し、優先順位、ツール、社内ルール

進め方は、紙の棚卸し、優先順位づけ、ツールの選定、社内ルールの整備の4ステップです。順番を飛ばしてツールから選ぶと、紙の運用がそのまま残りやすくなります。

ステップ1|紙の棚卸しをする

人事が扱う書類を、すべて書き出します。書類の名前だけでなく、次の項目をそろえて記録すると、後の判断が楽になります。

棚卸しの項目 書き方の例
書類名 扶養控除等申告書、住所変更届など
誰が書くか 従業員本人、上長、人事
年間の回数・件数 年1回、入社のたび、随時
転記の有無 書いた内容を別の書類・システムへ入力し直しているか
押印・原本・保管の扱い 押印あり、原本は保管、保管場所はキャビネットなど

ステップ2|優先順位をつける

棚卸しができたら、「件数が多い」「転記が多い」「回収に時間がかかる」のいずれかに当てはまる書類から着手します。逆に、年に数件しかなく、法的な扱いの確認が必要な書類は後回しにして構いません。最初の成果が出やすい業務で、手応えをつかむのが目的です。

ステップ3|ツールを選ぶ

優先順位が決まると、必要な機能が絞れます。入社手続きや年末調整、身上異動のように本人の入力が中心なら労務管理の機能、申請と承認が中心ならワークフロー、契約の締結が中心なら電子契約、というように分けて考えると選びやすくなります。いきなり全部を1つのツールで済ませようとせず、まずは最優先の業務に必要な機能から確認します。

ステップ4|社内ルールを決める

ツールを入れても、ルールがないと紙と電子が併存します。最低限、次の3つは文書にしておきます。

  • どの書類を電子で受け付けるか(紙でも受け付ける書類があるなら、その条件)
  • 電子で出せない人への対応(書面で提出する場合の窓口と期限)
  • 紙の原本の扱い(スキャン後に処分するか、保管するか、保管期間)

保管期間は書類ごとに決まりがあるため、決める前に専門家や所管の窓口で確認してください。

仕組みで支える|紙の業務に合わせたツールの選び方

ツールは、人事の紙の業務を「本人が入力する」「申請を通す」「契約を結ぶ」のどれが中心かで選び分けます。比較記事では、機能と料金を並べて確認できます。

どれを選ぶ場合も、確認したいのは「本人が入力した情報が、他の手続きにどこまで引き継がれるか」です。画面が使いやすくても、入力した内容が書類ごとに引き継がれないなら、転記の手間は残ります。

よくある質問(FAQ)

Q. 人事のペーパーレス化は、何から始めればよいですか?
A. 紙の棚卸しから始めます。書類名、誰が書くか、年間の件数、転記の有無を一覧にし、件数が多く転記も多い書類から電子化します。ツール選びは、その後で構いません。

Q. 労働条件通知書は電子メールで渡してもよいですか?
A. 厚生労働省のページでは、労働者が希望した場合に、FAXや電子メール、SNSのメッセージ機能等での明示が認められ、書面として出力できるものに限られるとされています(2026年10月時点)。希望を確認する手順と、出力できる形式での交付が条件です。

Q. 紙の書類をスキャンしてPDFで保存すれば、ペーパーレス化になりますか?
A. 保管の場所は減りますが、内容を別の画面へ打ち直しているなら、人事の手間はあまり減りません。入力を1回にし、その情報を各手続きで使い回せる形にすると効果が出ます。

Q. 電子で提出できない従業員がいる場合はどうしますか?
A. 書面でも提出できる窓口を残しておきます。電子で出す人と書面で出す人が混ざっても、回収状況を人事が一覧で確認できるようにしておくと、期限前の混乱を防げます。

Q. 電子化すると、紙の原本は捨ててよいのですか?
A. 書類ごとに保管の決まりがあり、この記事では個別の保存期間を確認できた範囲に含めていません。処分する前に、社会保険労務士など専門家や所管の窓口で確認してください。

Q. 小規模な会社でも、ペーパーレス化の効果はありますか?
A. あります。人数が少ないほど、1人が複数の手続きを兼ねていて、書き写しの手間が負担になりやすいためです。まずは入社書類か年末調整のどちらか1つに絞って始めると、続けやすくなります。