シニア人材の活用方法とは?法対応の整理と役割の設計パターン

コラム

結論から言うと、シニア人材を活用するカギは「雇い続ける制度」より先に「何を任せるか」を設計することです。制度面では、65歳までの雇用確保は事業主の義務、70歳までの就業確保は努力義務という整理になっています(2026年10月時点)。ただ、制度を整えただけでは現場は動きません。役割を専門職・指導役・引き継ぎ役などに分け、本人の経験とスキルに合わせて配置すると、シニアの力が組織に残りやすくなります。

「再雇用したのはいいが、何を任せればいいか分からない」「役職定年後に、本人も周りも距離を測りかねている」——こうした悩みは珍しくありません。本記事では、法律で企業に求められていること、活用がうまくいかない原因、役割の設計パターン、経験とスキルの棚卸しと配置の進め方を順に整理します。

高年齢者雇用安定法で企業に求められていること

企業に求められるのは、65歳までの雇用確保措置の実施(義務)と、70歳までの就業確保措置の努力義務です。厚生労働省の記載にもとづいて整理します。

65歳までの雇用確保措置(義務)

定年を65歳未満に定めている事業主は、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかを実施する必要があります。(出典:厚生労働省「高年齢者の雇用」)

つまり、定年そのものを65歳に引き上げなくても、継続雇用制度(再雇用など)を設ける形で足ります。実際の実施状況としては、令和7年の報告で65歳までの雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%、うち「継続雇用制度の導入」が65.1%、「定年の引上げ」が31.0%でした。(出典:厚生労働省「令和7年『高年齢者雇用状況等報告』の集計結果を公表します」)

70歳までの就業確保措置(努力義務)

定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主、または継続雇用制度を導入している事業主は、次のいずれかの措置を講ずるよう努める必要があります。法改正により令和3年4月1日から導入されたものです。

措置 内容(厚生労働省の記載にもとづく)
定年の引上げ 70歳までの定年の引上げ
定年の廃止 定年制の廃止
継続雇用制度 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
業務委託 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
社会貢献事業 70歳まで継続的に、事業主が自ら実施する、または委託・出資等する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度

(出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」)

同ページには、70歳までの定年年齢の引上げを義務付けるものではない、との記載もあります。70歳までの就業確保措置を実施済みの企業は、令和7年の報告で34.8%でした(前掲の集計結果)。法律が求めるのは「制度の用意」までで、制度の中身をどう生かすかは各社の設計に委ねられています。

シニア活用がうまくいかない3つの原因

うまくいかない原因は、本人の意欲や能力より「役割・処遇・関係性」の設計不足にあることが多いです。ここは調査データではなく、現場でよく起こるパターンとして整理します。

原因1|役職定年後の役割が曖昧になる

管理職の肩書を外れたあと、「何を期待されているのか」が言葉にされないまま働き始めるケースです。期待が分からないと、本人は手を出してよい範囲が読めず、周囲も頼み方が分からなくなります。結果として、経験はあるのに仕事が回ってこない状態が生まれます。

原因2|処遇と働く意欲のバランスが崩れる

再雇用で処遇が変わる場合、仕事の範囲や責任が変わらないまま報酬だけ下がると、納得感が下がりやすくなります。逆に、責任を大きく減らしたのに期待だけ現役時代のままだと、お互いにもやもやが残ります。処遇を決めるときは、役割の重さとセットで説明できる状態にしておくと、話し合いが進みます。

原因3|周囲が遠慮して頼めない

かつての上司や先輩が部下になる場合、若手や後輩は「頼みにくい」「指示しにくい」と感じがちです。一方、シニア側も「口を出しすぎないよう控えよう」と考えます。双方の遠慮が重なると、経験が共有されないまま埋もれます。遠慮を個人の性格に任せず、役割と窓口を決めて仕組みで解消するのが現実的です。

つまずき 現場で起きること 見直す点
役割が曖昧 仕事が回らず、本人も周囲も手探りになる 任せる範囲と期待する成果を文章にする
処遇に納得できない 働く意欲が下がり、最低限の仕事にとどまる 役割の重さと処遇の関係を説明する
周囲の遠慮 相談も指示も出ず、経験が共有されない 相談の窓口と場を仕組みにする

役割の設計パターン|任せ方を5つに分ける

役割は「専門職」「指導役」「引き継ぎ役」「現場の実務担当」「社外・横断の橋渡し役」のように型で考えると、本人との話し合いがしやすくなります。型は自社の仕事に合わせて組み替えて構いません。

役割の型 任せる内容の例 向く人 決めておくこと
専門職 特定分野の判断・難しい案件の対応 深い専門性や資格を持つ人 判断してよい範囲、相談を受ける窓口
指導役 若手・中堅への技術や判断の伝え方 教えることに抵抗がない人 指導の対象、頻度、評価の見方
引き継ぎ役 担当業務・取引先・ノウハウの後任への移管 属人的な業務を抱えている人 引き継ぐ対象と期限、後任の指名
現場の実務担当 これまでの業務を、負担を調整して継続 現場で力を発揮したい人 業務量、勤務日数、責任の範囲
橋渡し役 部署間・取引先との調整、顧客対応の補佐 社内外の人脈が広い人 誰のどの調整を担うか

引き継ぎ役を選ぶ場合、後継者の育て方そのものは別の話になります。育成の手順は後継者育成(サクセッションプラン)の進め方で扱っているので、ここでは「引き継ぐ役をシニアに明示的に任せる」点だけ押さえておけば十分です。

役割は1つに決め切らなくてよい

専門職と指導役を兼ねる、期間を区切って引き継ぎ役に移るなど、役割は組み合わせたり、時期で変えたりできます。半年から1年ごとに見直す前提にしておくと、本人も会社も動きやすくなります。

経験・スキルの棚卸しと配置の進め方

棚卸しは「何ができるか」だけでなく「何をやりたいか」「どこまで働きたいか」まで確認すると、配置の精度が上がります。進め方は次の4ステップです。

ステップ1|経験とスキルを洗い出す

担当してきた業務、持っている資格、社内外の人脈、トラブル対応の経験などを書き出します。肩書や年数ではなく、「どの場面で何をした人か」で書くと、後の配置に使えます。スキル項目の作り方はスキルマップの作り方が参考になります。

ステップ2|本人の希望と働き方を聞く

勤務日数、時間、責任の重さ、教える仕事への意向を面談で確認します。会社側の期待だけで決めると、役割がずれやすくなります。

ステップ3|役割の型に当てはめて配置する

洗い出した経験と希望を、前の章の型に照らします。配置の考え方の基本は適材適所の人員配置を実現する方法と共通で、「人に仕事を合わせる部分」と「仕事に人を合わせる部分」を分けて考えます。

ステップ4|期待と評価の見方を言葉にする

任せる範囲、期待する成果、評価の観点を、本人と上司で同じ文面を見ながら確認します。ここが曖昧だと、冒頭の「役割が曖昧」に逆戻りします。

学び直しの機会づくりはリスキリングの進め方、経験者と若手をつなぐ仕組みはメンター制度の進め方で詳しく扱っています。本記事では「役割を決めて配置する」ところまでを範囲にしています。

ツール・仕組みで経験とスキルを把握する

対象者が多い、または部署をまたぐ場合は、経験・スキル・希望を一元管理できる仕組みがあると配置の検討が早く進みます。

対象者が数名のうちはExcelや面談メモでも足ります。人数や部署が増え、更新が追いつかなくなった段階で、ツールの検討を始めるのが無理のない順序です。

よくある質問(FAQ)

Q. 65歳までの雇用確保は、すべての企業に義務ですか?
A. 定年を65歳未満に定めている事業主は、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかを実施する必要があります(厚生労働省「高年齢者の雇用」、2026年10月時点)。

Q. 70歳までの就業確保は義務ですか?
A. 努力義務です。定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主、または継続雇用制度を導入している事業主が、定年引上げ・定年廃止・継続雇用制度・業務委託契約・社会貢献事業への従事のいずれかを講ずるよう努める位置づけです。70歳までの定年引上げを義務付けるものではないと、厚生労働省のページに記載があります。

Q. 再雇用後の役割は、どう決めればよいですか?
A. 専門職・指導役・引き継ぎ役といった型に当てはめ、本人の経験と希望を聞いたうえで、任せる範囲と期待する成果を文章にします。半年から1年ごとに見直す前提にすると、ずれが小さいうちに調整できます。

Q. 役職定年後にモチベーションが下がるのは避けられませんか?
A. 役割の重さと処遇の関係を説明でき、期待が言葉になっていれば、下がりにくくなります。期待が不明なまま肩書だけ外れると、本人も周囲も動き方が分からなくなり、意欲を保ちにくくなります。

Q. 周囲の若手が遠慮して頼めない場合は?
A. 個人の気配りに任せず、相談の窓口や場を決めます。たとえば「この分野はこの人に聞く」と役割として公表すると、頼みやすくなります。シニア側にも、口を出す範囲を共有しておくと遠慮が和らぎます。

Q. シニアの経験やスキルは、どう把握すればよいですか?
A. 担当業務、資格、人脈、対応した難しい場面などを面談で書き出し、希望する働き方とあわせて記録します。対象が増えてきたら、スキル管理やタレントマネジメントの仕組みで一元化すると、配置の検討に使いやすくなります。