ダイバーシティ推進の進め方|採用で終わらせない3段階と把握したい指標

コラム

結論から言うと、ダイバーシティ推進は「多様な人を採用すること」がゴールではありません。受け入れる→活かす→成果につなげる、という3段階で見て、自社がどこで止まっているかを数値で把握するところから始めるのが近道です。採用の段階で止まっている会社は、入社後の定着や登用、管理職の関わり方に課題が残っていることがほとんどです。

「女性や外国籍の社員を増やしたのに、数年たつと辞めてしまう」「制度は整えたのに、使う人が一部に偏っている」——ダイバーシティ推進の悩みは、採用した後に起きます。本記事では、推進が「採用数を増やして終わり」になる理由、推進の3段階、進め方の4ステップ、把握しておきたい指標の例を整理します。インクルージョン(多様な人が対等に力を発揮できる状態)の考え方にも触れます。

ダイバーシティ推進とは|インクルージョンとセットで考える

ダイバーシティ推進とは、性別・年齢・国籍・障害の有無・働き方・価値観などが異なる人材を受け入れ、それぞれの力を組織の成果に結びつける取り組みのことです。人数や属性の「構成」を整えるだけでなく、その人たちが力を出せる状態をつくるところまでを含みます。

この「力を出せる状態」にあたるのがインクルージョンです。ダイバーシティが「多様な人がいること」、インクルージョンが「多様な人が尊重され、意見が通り、役割を任されること」を指すと考えると整理しやすくなります。構成だけ多様でも、発言しにくい空気や、特定の属性に偏った評価が残っていれば、成果にはつながりません。

推進が「採用数を増やして終わり」になる3つの理由

採用だけで終わるのは、取り組みの意欲が低いからではなく、成果を測る物差しが「人数」しかないからです。次の3つに当てはまっていないか確認してみてください。

理由1|目標が人数や比率だけで決まっている

「女性社員の比率を◯%にする」といった目標は分かりやすい反面、達成した時点で取り組みが終わりやすくなります。人数が増えても、定着・登用・働く意欲といった中身が変わったかどうかは、別の指標で見ないと分かりません。

理由2|入社後の受け入れが、既存の社員に合わせたまま

評価の基準、会議の進め方、働く時間や場所の前提が、従来の中心的な社員に合わせて作られたままだと、新しく加わった人は合わせるか、辞めるかの二択になります。採用の段階で多様化しても、運用が変わらなければ元に戻ります。

理由3|現場の管理職が当事者になっていない

制度を作るのは人事でも、日々の仕事の割り振りや評価をするのは管理職です。管理職が「人事の取り組み」と受け止めていると、任せる仕事の偏りや、声をかける相手の偏りがそのまま残ります。推進が進むかどうかは、制度の有無より、管理職の日常の判断で決まる面が大きいと言えます。

推進の3段階|受け入れる→活かす→成果につなげる

自社の位置を知るために、推進を3段階に分けて考えます。段階ごとに見るべき指標も打ち手も変わるので、採用の数字がよくても次の段階が空白ならそこが課題です。

段階 状態 主な取り組み 見る指標の例
①受け入れる 多様な人が入社し、働き続けられる 採用の間口の拡大、働き方の選択肢、相談窓口、入社後の受け入れ体制 属性別の採用数・定着率・離職理由
②活かす 強みや経験に合った役割・機会が与えられる 配置・アサインの見直し、研修や挑戦機会の均等化、評価基準の明確化 属性別の研修参加率・職務の幅・評価分布
③成果につなげる 多様な視点が意思決定や事業に反映される 意思決定の場への参加、登用、チームでの議論の質を高める運用 属性別の昇進・登用の状況、意思決定の場の構成、現場の声

多くの会社が止まりやすいのは①から②への移行です。「入社はしたが、任される仕事の幅が変わらない」状態を見つけるには、採用数ではなく、配置や評価のデータを属性別に見る必要があります。社員のスキルや経験を把握する方法は人材の見える化の記事も参考になります。

進め方4ステップ|現状の数値把握から管理職の関わりまで

進め方は「現状の数値把握→課題特定→制度と運用の見直し→管理職の関わり」の順が基本です。先に制度を作るより、先に数字を見るほうが、的を外しにくいからです。

ステップ1|現状を数値で把握する

まず、属性別(性別、年代、国籍、雇用形態、障害の有無など、自社で把握できる範囲)に、採用・定着・配置・研修・評価・昇進のデータを並べます。個人が特定されないよう、一定の人数以上のまとまりで集計し、取り扱いのルールを決めてから始めます。

最初から完璧に集める必要はありません。すでに人事システムや台帳にある項目から出し、足りない項目は後から追加する進め方で十分です。

ステップ2|課題を特定する

数字を並べると、「新卒の女性は定着しているが、30代で減る」「外国籍の社員は採用できているが、評価が低めに偏る」といった偏りが見えてきます。偏りが見えたら、数字だけで原因を決めず、該当する社員への聞き取りや、従業員サーベイの自由記述で背景を確認します。従業員サーベイの進め方は従業員サーベイの記事で整理しています。

ステップ3|制度と運用を見直す

課題に対して、制度(休暇・勤務形態・研修など)と運用(評価の観点、会議の進め方、情報の共有方法)の両方を見直します。制度だけ作って運用が変わらないのは、先ほどの理由2と同じ状態です。

たとえば、柔軟な勤務形態を導入するなら、その形態で働く人が評価で不利にならないよう、評価の観点を「時間」から「成果と役割」へそろえる、といった運用面の手当てが必要です。

ステップ4|管理職の関わりを設計する

管理職には、①自分の判断の偏りに気づくこと、②部下の事情や強みを聞き取ること、③任せる仕事や機会を公平に配ることを求めます。研修だけで終わらせず、評価面談や配置検討の場面に、確認する項目を組み込むと定着しやすくなります。

管理職向けの支援は、管理職のマネジメント力を高める方法や、意見を言いやすい場づくりを扱う心理的安全性の記事もあわせてご覧ください。

把握しておきたい指標例

指標は、3段階に対応させて選ぶと過不足がなくなります。数を増やすより、「受け入れた後」の指標を最低1つは入れることが、採用数だけの推進を防ぎます。

見たいこと 指標の例 読み取り方
受け入れ(構成) 属性別の従業員構成、採用者の構成 入口の偏りを見る。目標比率だけで終えない
受け入れ(定着) 属性別・入社年次別の定着率、離職理由 特定の属性や年次で落ちていないかを見る
活かす(機会) 属性別の研修参加率、配置転換や新規業務への参画 機会が一部に偏っていないかを見る
活かす(評価) 属性別の評価分布、評価に対する納得感 同じ成果で評価が分かれていないかを見る
成果(登用) 属性別の昇進・昇格の状況、管理職の構成 上位の役職で偏りが強まっていないかを見る
インクルージョン サーベイでの「意見を言いやすい」「役割を任されている」などの回答 属性別に差が出ていないかを見る

どの指標も、全社の平均だけでなく、部署別・属性別に分けて見ると課題が出ます。ただし、人数が少ない区分は個人が特定されやすいため、公表や共有の範囲には配慮が必要です。

情報開示との関係|人的資本の記事もあわせて

多様性に関する指標は、法令に基づく情報公表の対象になっている項目があります。社内で追いかける指標と、外部に公表する指標を同じデータでそろえておくと、集計の手間と数値のずれを減らせます。

たとえば有価証券報告書では、女性活躍推進法などに基づいて公表している場合に、女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金差異を「従業員の状況」などに記載することが求められています(出典:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について)。対象となるかどうかや記載方法は会社の区分によって異なるため、2026年10月時点の最新の要件は、所管の公的機関の案内をご確認ください。

人的資本の開示全般の考え方は、人的資本経営の記事で扱っています。本記事では、多様性の指標を社内で追う観点に絞って整理しました。

仕組みで支える|データを一元管理する選択肢

属性別の数値を毎回Excelで集めていると、更新のたびに手間がかかり、取り組みが続きません。採用・配置・評価・研修のデータが別々の場所にあるほど、属性別の集計が難しくなるため、一元管理できる仕組みが選択肢になります。

導入前に、自社で見たい属性と指標を決めておくと、必要な機能が絞れます。

よくある質問(FAQ)

Q. ダイバーシティとインクルージョンは何が違いますか?
A. ダイバーシティは多様な人がいる「状態」、インクルージョンは多様な人が尊重され、意見や役割が活かされる「状態」を指します。構成を整えるのがダイバーシティ、運用で力を出せるようにするのがインクルージョンと考えると区別しやすくなります。

Q. 何から始めればよいですか?
A. まず、すでに手元にある人事データを属性別に集計し、採用・定着・配置・評価・昇進のどこで偏りが出ているかを見ます。制度づくりはその後です。数字から入ると、取り組む場所を絞れます。

Q. 目標は人数や比率で決めてよいですか?
A. 決めて構いませんが、人数や比率だけだと達成した時点で取り組みが止まりやすくなります。定着率や登用の状況、サーベイの回答など、受け入れた後の指標を1つ以上あわせて置くのがおすすめです。

Q. 中小企業でも取り組めますか?
A. 取り組めます。人数が少ない場合は、属性別の細かい集計より、個別の聞き取りや働き方の選択肢づくりから始めるほうが現実的です。少人数の集計は個人が特定されやすい点にも注意してください。

Q. 管理職をどう巻き込めばよいですか?
A. 研修だけでなく、評価面談や配置検討の場面で確認する項目を決めておくと、日常の判断に反映されやすくなります。たとえば「任せた仕事の偏りはないか」「事情や希望を聞いたか」を面談の記録に入れる方法があります。

Q. 属性別のデータを集めるとき、気をつけることは?
A. 個人が特定されないよう、一定の人数以上のまとまりで集計すること、目的と取り扱いのルールを社内に示すことが基本です。センシティブな項目は、本人が答えたくない場合の選択肢も用意してください。